この記事は 海外 Advent Calendar 2018 - 7日目 の記事です。
マッチングサイトの海外カンファレンス「iDate2018」に参加しました。 http://mobiledatingsummit.com/agenda-miami-2018.php
世界的に伸びているマーケットなので非常に興味深かったです。 事業プレイヤーが何を考え、何を行い、その背景にはどういう力学が働いているのか。 セッション聴講やディスカッションを通して考察することができました。
もくじ
- もくじ
- 注意点
- カンファレンス概要
- 国際市場について
- オフラインのプレイヤーについて
- オンラインのプレイヤーについて
- サービス提供者が感じている悩み
- 技術的投資
- テクノロジー・マーケティングのナレッジ
- 全体的な感想
- まとめ
注意点
- 各国のサービスプロバイターを想定しており、日本国内のマッチングアプリ市場についての内容ではありません
- 公開セッションを聴講した内容(ならびに登壇者たちとのディスカッションを通した考察)のメモであり、私が所属する組織の見解とは関係ありません
- 英語圏にお住まいの方であれば何らかの形でアクセス・反証が可能な情報しか載せていないつもりです
- 情報量が多いため、である調・箇条書き・殴り書きのコメントとなります
- ノリと雰囲気で書いたので、ノリと雰囲気で読んでください(事実誤認がありそう)
カンファレンス概要
- 時期:2018年1月
- 場所:米国フロリダ州マイアミ
- ビーチから徒歩10分のホテルが会場
- 期間:プレイベントを含めて約1週間
- 規模:感覚値だが200人〜300人
- 日本人は5人:各サービスのCEOたちに日本を代表して婚活市場やマッチングサービスを説明することになった
- 米国開催だがヨーロッパやラテン系の人たちも多かった
- ロールとしてはCEO、マーケター、個人事業主が多かった
- 内容
- 約30分のスピーチセッションが1日数本
- その合間にディスカッションタイム:婚活パーティーのように3分話して「はい次の人」という感じで流される
- ホテルのロビーでコーヒーを飲んでいると非公式ディスカッションに巻き込まれる
- 資料
- 分量が多いので割愛します
- 興味のある方は探してみてください
- 参加者宛てメールで送られてきたけど、Google検索で見つからない(公開されていない?)資料があるかも
国際市場について
- 婚姻数
- 先進国は総じて人口減少・未婚化・晩婚化
- 日本のグラフよりは緩やか(というか日本が世界TOPでヤバすぎる)
- 移民や年齢差などの結婚・離婚に関する研究紹介もなされていた
- マッチングサービス市場
- ウエイト
- 売上ベースだと:オフライン > オンライン > カジュアル
- 利益ベースだと:オフラインとオンラインで同じくらい
- 過去数年でのオンラインvsオフラインのシェア変動はそこまで大きくない
- そもそも米国だと最古のマッチングサイトは20年以上前
オフラインのプレイヤーについて
- マッチメイキング・デーティングコーチと呼ばれる市場
- 仲人(なこうど)事業
- https://en.wikipedia.org/wiki/Matchmaking
- 日本における結婚相談所に近い
- 様々なタイプがある
- 地域密着型
- 提供サポート豊富型:コーチする、お店選びを手伝う、髪型をセッティングする
- 高単価・高品質型:どんな相手とマッチングしたいかコーディネーターが3時間掛けてインタビューする
- オンラインとの違い
- 写真やプロフィールを見なくても「この人の紹介なら」とデートをOKすることがある
- 業界コミュニティ
- 担い手
- 市場としての課題
- ユーザー需要はあるが、高価格のためアプローチできていない潜在層がいる
オンラインのプレイヤーについて
オンライン > 機能面
- 総じて横並びのサービスが大量に出ている状況
- 製品観点の動きは弱い
- 方向性を模索する動きはある
オンライン > UX面
- カスタマーから文句を言われているプレイヤーが多い
- それでも顧客は使っている&市場は伸びている
- トラブルが爆発的に増加している
- カスタマーサポート・審査自動化の重要度が上がっている
オンライン > データ分析面
- そこまで高度な行動分析はどこもあまり出来ていないのが実情らしい
- 成婚までの勝ち筋の科学
- 継続要因:何がリテンションに効くのか
- 後工程:マッチ後に恋人になるのか(そもそもデータがない)
- Match Group は着実に投資している
- データ統合による横断分析
- スパム行為検知の自動化
- ABテストを打つ → ユーザー行動の変化を分析 → 製品・市場の特性を学習 → 次のABテストに繋げる
- 例:ランディングページの掲載コンテンツは美形モデルよりも一般ユーザーの生の声のほうが効果があったらしい
- 考察:米国市場において、美形モデルによる認知訴求のフェーズは終わった(=マッチングサービス自体の知名度は十分に高まった)ということ
- 考察:近い人物が「あなたでも成功できますよ」と訴求するフェーズ(=ユーザーが品質面に対する信頼性を求めている)ということ
- 例:ランディングページの掲載コンテンツは美形モデルよりも一般ユーザーの生の声のほうが効果があったらしい
オンライン > 経営面
- 主要プレイヤーがニッチプレイヤーをM&Aする流れがある
- ニッチプロダクト本体:王道プレイヤーがオペレーションを横展開 → 低コストでニッチプロダクトを磨き込む → グループ会社でマーケットの面を取る
- ニッチプロダクト創業者:実績と資本を手に入れて、次のチャンスを掴みに行く
- (後述のSaaSを含めて)金を回すためのエコシステムができている
- 行動したもの勝ちの世界
- ニッチプレイヤー
- 地域やコンテンツの切り口:宗教、同性愛者、HIV保持者などに絞ったマッチングサイト
- ニッチでも世界全体なら十分な市場規模になる
- 日本国内で大ヒットだと騒がれているサービスよりも売上の桁が大きい
- ゲイ専用マッチングサイトは米国シェア7%
- 市場規模としては普通にデカい(それでもUS基準ではニッチ)
- オフラインだとゲイをカミングアウトできないので、オンラインと相性が良い
- BRICsについては、単純に市場規模でかい
- 欧米企業がアジア圏(中国、フィリピン、マレーシア)への展開を本格開始している
- 日本は市場規模が小さすぎて相手にされていない
- 施策に投資しやすい
- 市場規模が大きいので、多少ニッチ向けの機能や施策でも、品質がそこまで高くなくても、一定数のユーザーに響く
- 日本と同じInvestmentで、日本以上の安定たReturnを得られる(ROIが相対的に高い)
- アイデアベースでも施策のROIを正当化できる → 要するに「やれば伸びる」から「早く投資・執行しよう」と言える → 調査や優先順位検討に掛けるコストが少なく済む → 仮説検証サイクルを高速に回せる → 仮説検証の中で「勝ち筋」を見つける → 収益を得る → その収益をさらに投資する...というポジティブサイクルが回る
- ネタか本気か分からないがICOやビットコインの活用に言及しているところもあった
オンライン > 長期トレンド
- 新規サービスが既存サービスをリプレイスする際の歴史構造
- リプレイスのドライバーは基本的にテクノロジー(=データの流れ)
- 2軸で切ると【アクセス人口】x【工程】(=アカウント登録→プロフィール入力→マッチング→デート)
- 【人口】観点のリプレイス
- インターネットの台頭(20年前):オフラインに比べてアクセス人口が爆増した
- 【工程】観点のリプレイス
- 現状の覇者はTinder
- 例:マッチングサイトにプロフィール文を記述する世界観 → Facebook連携で自動的にプロフィール項目が埋まる世界観
- 例:マッチングサイト上のテキストで好意を伝える世界観 → フリック動作でパチンコのようにいいね!しまくる世界観
- これがマッチングサイトのあるべき姿だとは言わないが、この思想を体現したTinderが現在時点におけるマーケットの覇者であることは事実
- 次はどうなるか
- レコメンド?コーチ?恋愛工程のどこをどう楽にする?
- 現状の覇者はTinder
- 【人口】観点のリプレイス
- 世の中にマッチングサービスが認知されたステップ
- インパクトのあったイベント(米国)
- 人気テレビドラマで登場人物がマッチングサイトを使うシーンがあった
- 芸能人がTinderを利用した
- フェーズごとに影響力を持ったメディア
- インパクトのあったイベント(米国)
サービス提供者が感じている悩み
- 総論
- 多くの提供者は「パートナーを見つける最高のソリューション・体験を提供できている」とは思っていない
- 破壊的プレイヤーが台頭する可能性もあるか?
- 各論
- ユーザーが自分のプロフィールを盛りがち(データを見ると正規分布からやや右側にズレる)
- パレートの法則:一部の人気ユーザーが大多数の好意を独占する一方で、大多数の不人気ユーザーが少数の好意を奪い合う
- パチンコのようにいいね!を押しまくるユーザー体験
- 小さな写真と短いプロフィール文を読んで何となくの雰囲気で相手を選ぶ体験
- 後工程:お見合いのあとにどうなるかまでサービスが責任を持っていない
- 恋愛で必要な観点(タイミング、ムード、会話の流れ)を支援するようなUXを提供できていない
- カップル成立=退会=売上が減ってしまうが、どのKPIにフォーカスすべきか
- カスタマーサポートスタッフはアウトソースにすべきか内部部隊にすべきか
技術的投資
Safety担保と機械学習
- 手動
- 問い合わせベースの対応でリアクティブになりがちという課題がある
- カスタマーサポート部隊のスケールだと、人材品質は逓減してコスト・リスクは逓増してしまう
- 補足だがコミュニティーオーナー制度をやっているところもある
- 自動
- 審査観点
- キーワードによるルールベースで迷惑投稿を見つける:プロフィール文・メッセージ内容(日本と違って国によっては通信の秘密がない)
- フォトレタッチや他から取ってきた画像ではないかを確認する:プロフィール写真・本人確認書類
- これらの判定行為を自動化する
- 盛り上がっている背景
- 英語(とスペイン語)圏はユーザー数の桁が日本と違うので、自動化のROIが極めて高い
- ROIが正当化されやすい → 自動化や効率化などの技術的投資ができる → 浮いた工数・コストでさらに攻める取り組みができる → ユーザー獲得・提供価値の拡充 → さらなる自動化・効率化......の成長スパイラル
- 日本の市場規模だけで考えると「ひとまずは手動運用で対応しましょう」というジャッジがROI最大化に寄与することもあるが、上記スパイラルに乗っているサービスと比べると決定的な差が生じる
- マッチングサービスに閉じた話ではなく日本国内のあらゆる産業で海外勢に対して構造的なビハインドがある
- ビジネス(市場)とテクノロジー(技術的投資)をどう捉えるかという経営アジェンダなので、CEOの判断とそれを促すCTOの力量に依存する
機械学習SaaSの活用
- データ活用例
- 審査の自動化
- 例:Basedo
- 審査の自動化により、精度9割でコスト7割削減
- 別サイトの不正行為データを横断でSaaSが保持するため、クレジットカードやメールアドレスだけで不正アカウントを検知できる
- アカウント登録の瞬間に特定が可能
- 大手サイトの利用実績がある
- 身近な事例だとメルカリUSが利用
- レコメンド
- WebAPIにキーワードをリクエストすると、対象ユーザーリストがオススメ順にソートされてレスポンス
- 当たり前だが目的変数を最大化させる形で学習する
- 正しいデータが取れていることが前提
- 例:マッチングしたか、BANされていないか、デートに漕ぎ着けたか、長期間の交際に繋がったか
- 導入しても上手くいっていない現場が多々ある
- そもそも上記データを取れていない
- データクレンジングの負荷が高い
- 審査の自動化
- 自前でソリューションを作るよりもROIが高い
- 経営者が「選択と集中」をしている
- こうした環境のほうがスタートアップは成功しやすいのかも
- 外部ツールを使う力学が働いている
- SaaS提供側が売りを立てやすい
- 内製重視の環境に比べると、経済は活性化しやすそう
テクノロジー・マーケティングのナレッジ
- セッションで解説のあった「一般論」は日本で得られる情報と大差ない
- エンジニアやサイエンティストの個人スキルに対海外劣位はない
- 日本人でも一部の優秀な人がいて、大多数のそうでない人がいて、海外と言えどそれは同じ
- 例:マシーンラーニングの仕組みと活用のコツ
- AIブームは3度目だよ、という話から始まり
- Courseraで学べるような手法の概要紹介に続き
- システム保守・UX観点・ワークフロー設計が落とし穴だ!という話に着地する
- 例:アフィリエイトプログラムの設計ノウハウ
- アフィリエイターにとってのUXジャーニーを磨き込もう
- アフィリエイターと連携するためのコミュニティ構築が勝ち筋になる
- アフィリエイターを育てる視点が大切だ
- 休憩時間に機械学習エンジニアとディスカッションをした
- 「6ヶ月でお前のところの業務を全部自動化してやるよ」と煽られた
- 具体的にやることを聞くと、プロフェッショナルを1人ずつ・案件ごとに専任で張れば、余裕で達成出来る内容だった
- しかし、国内の多くの現場だと「プロフェッショナルを1人ずつ・案件ごとに専任で張る」ことができていないと思う
- 専門家の個人スキルの上下ではなく、明らかにマネジメント(というか経営)の差だと感じた
全体的な感想
- (久々の海外でちょっと不安だったけど)英語力よりもドメイン知識とディスカッション姿勢が大事
- 知識があれば何となく聞き取れる → 日頃からアンテナを張って担当プロダクト・市場に人一倍詳しくなることが大事
- 姿勢があれば話を聞いてくれる → 日頃から積極的に発言することが大事
- 海外プレイヤーの強さに危機感を持った
- マッチングサイトに限らず産業全体としての感想
- 製品機能やマーケティング施策に差はないが、経営と市場の構造に圧倒的な違いがある
- そもそも日本市場は相手にさえされていないけれども
- 地方のド田舎であれこれ考えたあとに、東京のイベントに参加して全部ひっくり返された、みたいな感覚
まとめ
「市場規模」「フォーカス」は本当に大事なんだなぁと思いました(小学生並みの感想)