あくまで個人的な見解ではあるが、私が「リーダー」と「マネージャー」という言葉を使うときは、以下のように使い分けている。
- リーダー。物事を前に進める人。スポーツで例えるとチームの空気をポジティブに変える選手。
- マネージャー。全体の流れを管理する人。スポーツで例えるとチームに的確な指示を出す監督。
風音屋(@Kazaneya_PR)の組織図も「リード職が前衛」「マネージャー職が後衛」というコンセプトで設計している。 厳密にはリードとリーダーは別だと考えているので、その説明は後述するが、「Leadする」「Manageする」という行為のニュアンスが伝わるかなと思って紹介した。
少年漫画で例えると……
少年漫画でも、主人公がリーダーで、マネージャーは別にいることが多いように思う。ネタが分からない人はこの項目を飛ばしてOK。
- 特にロボット系の作品は分かりやすい。明確にエースパイロットである少年主人公(リーダー)と、主人公に指示を出す司令室のおじさん管理職(マネージャー)とで役割が分かれている。
- NARUTOも、主人公であるナルトはリーダーとして敵に切り込んでいく一方で、隊長であるカカシやヤマトがマネージャーとして隊の活動方針を決めたり、火影であるツナデがマネージャーとして里全体の方針を合意形成している。
- ドラゴンボールだと、最初のほうは孫悟空がリーダーとして敵を蹴散らし、ブルマがマネージャーとして冒険のアテンドをしたり、亀仙人がマネージャーとしてZ戦士たちを支援している。一方で、終盤の孫悟空はマネージャーとしてチーム全体のレベルアップを指導する立場へとシフトしようとしていた。
- HUNTER X HUNTER のキメラアント討伐隊では、ゴンやキルアは敵軍に切り込むリーダーとして振る舞い、チーム全体を見ていたマネージャーはどちらかというとモラウだろう。状況に応じて、キルアが周囲のサポートに動いたり、モラウが師団長を個別撃破したりと、役割を切り替えながら場面が展開されていったのは、本作の特徴と言える。
- ジョジョも、主人公がリーダーで、年配者がマネージャーの役割になっていることが多い。例えば、3部だと、承太郎がリーダーとして困難を打開しつつ、ジョセフがマネージャーとして旅の順路を意思決定したり手段を手配している。
- 注意点として、5部はジョルノがリーダー(身を挺してチームにチャンスボールを回す)で、ブチャラティがマネージャー(チームの力を活かして最終的な帳尻を合わせる)の役割なのだが、ブチャラティ自身がリーダーを自称している場面がある。後ほど補足する。
例外がワンピースで、ルフィは船長としてマネージャーの役割を果たすこともあれば、主人公としてリーダーの役割を果たすこともある。顕著なのがW7編で、船を乗り換えたりチームに従わない者を追放するといった決断はマネージャーとしての側面が強く、自分が強くなって仲間を取り返そうとするのはどちらかというとリーダーとしての側面が強いのかなと思っている。
「ヒト or コト」x「Lead or Manage」
Leadする対象、Manageする対象には、「ヒト」と「コト」がある。
- ポジティブな言葉でチームの空気を変えるのは「ヒト」のLead
- 選手1人1人の強みと弱みを踏まえてポジションを変えるのは「ヒト」のManage
- 失点間際から逆転ゴールに繋がるようなロングパスを決めるのは「コト」のLead
- スポンサーや観客が満足するような試合結果を出すのが「コト」のManage
「リーダー」を「偉い人」「人をまとめる立場」として捉えている人は「リーダー=ヒトのLeadをする人」と捉えていることになる。 反対に、Amazonという会社は「全員がリーダーである」という思想で、リーダーシップを14項目に分けて、採用や評価のスコアリングに用いている。
各要素の相互作用
ややこしいのは、これら全てが相互作用を及ぼすという点だ。
チーム全体の空気を変えていくのは「ヒト」のLead、プロジェクトを前に進めるのは「コト」のLeadと言える。
- プロジェクトを前に進めるためには、チーム全体が一丸となる必要がある。「コト」を大きくLeadするためには、その過程で「ヒト」をLeadしないといけない。
- 一方で、プロジェクトが前に進むからこそ、チーム全体が一丸となるという特性もある。「ヒト」をLeadするためには、まずは「コト」をLeadしないといけない。
チームが目標達成できるように支援するのは「ヒト」のManage、プロジェクトの最終的な帳尻を合わせるのは「コト」のManageと言える。
- プロジェクトの帳尻を合わせるためには、チームの力を活用しないといけない。「コト」をManageするには、その過程で「ヒト」をManageしないといけない。
- 一方で、プロジェクトの意義や道筋が明確で納得感があるからこそ、チームが機能するという特性もある。「ヒト」をManageするには、まずは「コト」をManageしないといけない。
LeadするにはManageが、ManageするにはLeadが、それぞれ必要となる。
- 「ヒト」のManageを成功させるには、誰かが「ヒト」をLeadしてチームを前向きにしないといけない。
- 「ヒト」をLeadするには、誰かが「ヒト」をManageしてチーム全体のコンディションに目を配らないといけない。
- 「コト」のManageを成功させるには、誰かが「コト」をLeadして前進させないといけない。
- 「コト」をLeadするには、誰かが「コト」をManageして道筋を明らかにしないといけない。
そのため「マネージャー向けのスキル」として「リーダーシップ」が求められ、「リーダー向けのスキル」として「マネジメント」が掲げられることになる。だから書籍や記事では両者が混ざってしまっている。そういったコンテンツを読むと、読み手も混乱してしまう。私も無意識のうちに混ぜてしまうことがある。
コトにも「プロジェクト」と「技能」がある
さらに言うと、「コト」にも「プロジェクト」と「技能」の2種類がある。「技能」については以下の投稿が参考になる。
同社の指導職はありがちな管理職と主任職の繋ぎ的なものではなく、完全に別体系のプロフェッショナルという位置付けになる。
— らくからちゃ (@lacucaracha) 2024年10月20日
管理職はあくまで部門のマネジメントに専念して、目標をたてて達成をするための戦略を立て、資源を集めて、仕組みづくりを進めていく。指導職は何をするのか。
名前の通り、高度な技術課題について解決策を考え、メンバーを指揮・教育しながら、結果を出していく。技術に集中して、そのほかの調整は管理職に任せていく。エキスパートには専門領域に集中してもらう。
— らくからちゃ (@lacucaracha) 2024年10月20日
で、概ねうまく回っていたんだけど、文句を言うひとも出てきたんよね。
以上を踏まえて、風音屋では、マネジメントという言葉を「Project Management」「Technical Management」「People Management」の3つに分けて捉えている。これらはトレードオフの関係に陥ることがあるため、役割を分けたほうが望ましいということを以下の記事で解説している。
役割、能力、振る舞い
「リーダー(役割)」「マネージャー(役割)」と「リーダー(振る舞い)」「マネージャー(振る舞い)」は異なる。 リーダーシップがないリーダーなんて、世の中にはいくらでも存在するだろう。 逆に、リーダーでなくても、リーダーシップを発揮している人も、世の中にはいくらでも存在する。 加えて言うと「リーダーシップ(能力)」「マネジメント(能力)」も「役割」や「振る舞い」とは異なる。
ややこしいところだが、風音屋では、以下で使い分けるように意識している。
- 「マネージャー職」は役割。マネジメントスキルを発揮している人、発揮してほしい人を、マネージャーという役割に任命する。
- 「マネジメント」はスキル。才能・素養ではなく、努力によって、マネジメントスキルを身につけ、マネジメントスキルを発揮することができる。
- マネジメントスキルについては上の記事で解説している。
- 「リード職」は役割。リーダーシップを発揮している人、発揮してほしい人を、リードという役割に任命する。
- Lead(動詞)と同じ呼び方なので、別の呼び方のほうが良いのではないかとは悩んでいる。
- 「リーダー」は振る舞い。全員にリーダーシップを発揮してほしいと期待している。
- 例外的に、バックオフィス職の正社員に対しては「わかりやすさ」を重視して、「契約社員や派遣社員を束ねるリーダーとして振る舞ってほしい」という言い方をすることがある。「振る舞い」を身につけてほしいというのが正確な要求だが、読み手には「役割」として受け取ってもらったほうが期待水準が伝わりやすいだろうということで、あえてダブルミーニングになるような言い方をしている。
- 「リーダーシップ」はスキル。才能・素養ではなく、努力によって、リーダーシップを身につけ、リーダーシップを発揮することができる。
リーダーシップは鍛えられる
エレベーターでボタンを押すとか、妊婦に席を譲るとか、飲み会の幹事に挙手するとか、会議で積極的に発言するとか、そういうところから小さなリーダーシップを発揮し、繰り返すことで、徐々にスキルとして定着することができる。リーダーシップは「物事をポジティブに前進させる力」と表現するのが適切だろうか。
リーダーシップやプロフェッショナリズムってのは、特定の技術に詳しいってだけじゃなくてさ、妊婦に席を譲るとかエレベーターのボタンを押すとか、他の誰かのために一歩前に出るってことの延長にあると思うわけよ。議事録を残したり報連相を徹底するのは、周囲への貢献という点では同じことかなって。
— ゆずたそ / Sho Yokoyama (風音屋) (@yuzutas0) June 23, 2023
全員がリーダーシップを発揮できる組織
飲み会の幹事を経験したことがないと、どういう振る舞いをしたら良いか分からない。周りの人のアレルギーに配慮できなかったり、ドタキャンしたり、お皿が空いているのに片付けなかったり、アイスブレークの話題を切り出せなかったり、他の客の迷惑になるようなことをしでかしても、それが問題だとは気付けない。
飲み会の幹事を経験して、飲み会というプロジェクトをリードしたことがあれば「こういう点に注意しないといけないな」と配慮できるようになる。結果として「コト」や「ヒト」に対してポジティブな動きができるようになる。飲み会の幹事を経験したことがある人だけで飲み会をすると、「こうすると幹事もラクだろう」という動きを全員が行い、スムーズに飲み会を企画・運営することができる。
組織も同じで、全員がリーダーシップを発揮できる環境のほうが、圧倒的に生産性は高くなる。当然ながら「誰も発言しないまま無為に時間が過ぎる会議」よりも「全員が積極的に発言しあう会議」のほうが建設的だ。別の論点として、空気の読めない発言ばかりしたり、議論が混乱するような場合は、リーダーシップの問題ではなく、論理的思考だったり、アジェンダ設定だったり、ファシリテーションのスキルを伸ばせば良い。行動してみて不都合が出てくるようなら改善すればいい。誰も発言しないようではそれ以前の問題だ。
といったことが『採用基準』という本に書かれている。マッキンゼーでの採用活動について解説しており、「リーダーシップを発揮したことがある人を採用するのがベストだ!」的なことが書かれている。
まとめ
ということで、リーダーのいないチームは前に進まないし、マネージャーがマネージャーとして振る舞えないチームは脆い。 別にエースストライカーや4番選手でなくても、全員がリーダーシップを発揮して良いし、それができるチームは強い。 それはそれとして、監督がマネジメントスキルを発揮してチームが勝てるように促すことも大事。