この記事はProduct Manager Advent Calendar 2018 - 25日目の記事です。 PMではなかったはずなのにズルズルとPM代行業をやることになって、新規事業の立ち上げで四苦八苦しながら綴ったポエムになります。
お願い
何歩も前を進んでいる先輩方からすると、この記事の言い分はアンチパターンなのかもしれません。 読んでいて「こいつはまだまだ青いな」と思ったら、ぜひツッコミをください!
背景
2018年には社内外でいくつかの新規事業に関わりました。 そこで多くのエンジニアが「xxxと同じものを作るだけではないか」と不満を持っているのを見ました。 中にはプロダクトマネージャー自身が「差別化の罠」に陥っているところもありました。
差別化の罠
「差別化の罠」と私が呼ぶのは、その名の通り「差別化にこだわったせいでかえって企画が失敗する」というアンチパターンのことです。 「このままじゃ既存のサービスと同じだ」と言って、本当にニーズがあるのかさえ分からない機能を押し込む。 ユーザーに響く保証もないキャッチフレーズ(そもそもどこで使うの?)作りに時間を浪費する。 「特別な何か」を追い求め、いつまで経っても要件がまとまらず、フォーカスとモメンタムが損なわれ、チームが迷走する。 こういう場面は多々ありました。
業務支援系のSaaSだと初期バージョンの機能面ではあまり差が生じないように思います。 ターゲットユーザーや支援対象業務のセグメントを細かく切ればまた違うかもしれませんが。 大抵の場合、機能面だけに注目するならば、最初は既存サービスのクローンを作るような形になるはずです。
稼げるサービスというのは、ある程度似通ってしまうはずです。 市場が大きいというのはそういうことだと思います。 キャッシュポイントが強いというのはそういうことだと思います。 わざわざ差別化を意識するくらいですから、それだけ強固で堅実なビジネスモデルが既にあるはずです。 伸びているドメインなら、最初は先人の知恵を借りて、既存のモデルに乗ってしまえば良いはずです。
Googleでさえ世界的には後発の検索エンジンで、被引用数を軸にしたシンプルなロジックから始まったそうです。 Yahooはリンク集だし、Facebookは前略プロフだし、Amazonはマニアックな書籍の通販サイトだったわけですよ。 どれも世界初のサービスではありません。 ヒットするサービスに「特別な何か」なんてないんだということは声を大にして言いたいです。
コピーキャット
もっと身近に92・93年生まれの国内起業家を例にあげましょう。 Progateはプログラミング学習、Kurashiruは料理動画、mikanは英単語Tinder。 これらを聞いて、ドメインやアイデアが斬新ですごい、という感想は抱かないはずです。 むしろ手堅いマーケットとユーザー体験を抑えていますよね。
同じサービスを自分が0から担当するとしたらどうでしょうか。 今から3ヶ月以内に結果を出せなかったらクローズだと言われたらいかがでしょう。 3ヶ月後に50人のユーザー規模を突破できない人もいれば、3ヶ月後に5,000人のユーザー規模を突破させる人もいるはずです。 その差はアイデアじゃないですよね。 彼らがすごいのはそこですよね。
『コピーキャット』という書籍を読むと、アイデアや機能だけが勝負を決めるわけではないと思い知らされます。 ビジネスを伸ばすための勝ち筋をどう抑えるか。 整合的でムダ・ムラ・ムリのないオペレーションをいかに構築するか。 地道な営業活動を粘り強く続けられるか。 「こっちのほうがいいかも」という誘惑を断ち切って1つの事業にフォーカスできるか。 極端な言い方をすると、誰がどうやるかの違いでしかないのだと思っています。
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エグゼキューション
実行の過程で必然的に見えてくるものがあります。 業務支援SaaSであれば、ランディングページ訪問時の検索キーワードが、ユーザーからプロダクトへの期待です。 営業電話で「それなら使うよ」と言ってもらえるポイント(いわば殺し文句)が、ユーザーからプロダクトへの期待です。 その期待を満たすことがプロダクトの価値提供であり、その延長上に差別化があるのではないでしょうか。
もちろん仮説ありきです。 まずはビジネスとして大きい絵を描く。 絵がないとリソースは動かせないからです。 資金やメンバーはもちろん、それ以上に、自分自身をフルコミットさせられないでしょう。
ただし、絵を描くとしても、その絵は実行可能でなければいけません。 大きいけど複雑ではない絵、シンプルに留めた絵。 大きいけどユニークではない絵、パターンを抑えた絵。 肝心なのはエグゼキューションだからです。
プロフェッショナル
その肝心なエグゼキューション。 まず10人のユーザーに使ってもらう。次に100人に。1,000人に。10,000人に。 そうやって非連続に利用者を伸ばしていくわけです。 そのために愚直に施策を打ち続けるわけです。 ダメな施策を打っても無駄なので、マーケットの反応を見て、勝ち筋を探るわけです。
やることは単純ですが、しかしそれが難しい。 マーケがクソだと顧客が来ない。 システムがクソだと使い物にならない。 デザインがクソだと離脱されてしまう。 サポートがクソだと悪評が広まってしまう。 経営がクソだと組織が内側から瓦解してしまう。
だからこそプロフェッショナルがいることに意義があるのです。 そしてプロダクトを伸ばすための企画を考えるのが楽しいんじゃないか!と思うわけです。
で、どうしたらいいの?
関わるメンバーは「せっかくだからこういうのもやろうぜ」と小さな介在価値を入れ込めば良いと思います。 エンジニアなら技術的なチャレンジとしてテストツールを使ったり、デザイナーなら画面設計でモダンな思想を取り入れたり1。 プロフェッショナルが微に入り細を穿つことで、プロダクトの細部に神が宿り、その1%の進化が積み重なることで、競合優位性が構築されるのではないでしょうか。 要するに自分なりに楽しめば良いのだと思います。
そして「差別化の罠」に陥りかけているチームに対して伝えたいことは
- 思いつきで要件を膨らませるだけのお偉い様方は少し黙ってください。あなたたちにしか出来ないサポートは他にもっと山ほどあるのですから、そっちを全力でお願いしたいです。
- メンバーはきちんと声を上げていきましょう。あなたたちが動かなければ、プロジェクトが前に進むことはありません。何が決まれば作業に着手できるのかをリストアップして、さっさと全て決めてしまいましょう。
という感じです。
で、お前は何をしたの?
もう少しオブラートに包んだ言い方ですが各現場で実際にこのような話をしました。 私自身の正式なロールは Product Manager ではなかったのですが、いつまでたっても右往左往するだけだったので「いいからやるぞ!」ということで、気持ちとしてはポジションを半分ほど乗っ取らせていただきました。
その後、いくつかの事業は順調に動き始めたので、しかるべきPMにロールを移譲しています。 一方で、いくつかの事業は執行力の低さを理由にして2、オーナー・資金提供者3から撤退を言い渡されています。
両者に差があるとしたら、どのような形であれ具体的なアウトプットを素早く出したかどうかだと思っています。 開発途中の画面のキャプチャだけでもいいからステークホルダーに見せる。
アウトプットが出てしまった以上は、チームも資金提供者も、もうお互いに引っ込みがつかないので、対策前進するしかないわけです。 エグゼキューション力というのはそういうアウトプットを積み重ねて身に付くものだと思います。 アウトプットを積み重ね、ひたすら対策前進を繰り返し、仮説サイクルを回しまくって、そうやって勝ち筋に辿り着くのかなと思います。
もっと端的に言うと「口を動かす人よりも手を動かす人の数が多いチーム」や「メンバー全員の経験値が豊富でアウトプットの質が高いチーム」は確実に生き残っているのかなと思います。
おまけ
ということをSlackに殴り書きしたらコメントが寄せられました。
あわせてよみたい。
by @takesako
あわせてよみたい。
by @poohsunny
答えをもっているのはユーザーなので、簡単に実験できてそれが本当に意味があるのか・無いのかが分かるようにしたい。データ基盤、FeatureToggle、カナリヤリリース、ダークローンチ、etc...。
by @i2key
おわりに
プロダクトをきちんとマネジメントできるようになってからプロダクトマネージャーを名乗ろう!!!!! まともにファーストリリースさえできていないのにプロダクトもクソもあるか!!!!! キラキラしたPM像を描いてそれっぽいことを言ってるだけじゃプロダクトは作れないと思うんですよ!!!!!
半年以上掛けて方針を検討するくらいだったらなぁ、さっさと1週間でリリースしちまえよ!!!!! 会議を重ねたり、曖昧なヒアリングを続けたところで、いつまでたっても同じ話の繰り返しじゃねぇか!!!!! だったらむしろ、ペラ1のチラシを持って見込み客に声を掛けて、まずは1件の受注を目指そうや!!!!! 着手するのが今日だろうが半年後だろうが、どうせ考えていることなんて二転三転するだろうが!!!!!
もうね、一度全員ラーメン屋を経営して黒字にしてからPMを名乗るのがいいんじゃないですかね!!!!! めっちゃ大変だと思いますよ!!!!! 飲食店は全部の要素が詰まっていますからね!!!!! だからこそかなりの勉強になるんじゃないですかね!!!!!
あと3ヵ月でどうにかお金を稼ぎたいと思ったらスモールビジネス戦略だ!
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ただし十分な実力がない人材が思いつきで試すとプロジェクト炎上の原因になるのでその点は気を付けたいです。リテラシーが低い人向けのサービスで斬新なUIにしても離脱されるだけだったり。やるならユーザーインタビューやリサーチを踏まえて根拠のあるデザインにする、もしくはABテストで検証する。そういう徹底的な姿勢が前提にあるかと思います。もし私自身がそのレベルに至っていない見習いなら、金を払ってでも外部メンターを捕まえて、指導を受けながら仕事を進めるだろうと思います。↩
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表立ってそうは言っていないけど原因を深掘ると執行力としか言いようがない感じでした。↩
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持って回った言い方をしましたが、大企業の場合はプロジェクトをレビューする上位レイヤー(要するに社長や役員)のことです。↩