下町柚子黄昏記 by @yuzutas0

したまち発・ゆずたそ作・試行錯誤の瓦礫の記録

『超入門 失敗の本質』を読みました

この記事では、下記書籍を読んで「計画を立てるときに意識したい」と私が思った項目を列挙しています。

「超」入門 失敗の本質

「超」入門 失敗の本質

もくじ

どのような書籍か

『失敗の本質』を平易に解説した書籍です。日本が太平洋戦争(大東亜戦争)で敗戦した原因を分析しています。本書では「逆算思考」「リスク管理」「偶発依存からの脱却」「情報収集」「変化への適応」といった観点で「見立てる力」の弱さが指摘されています。

なぜこの書籍を読んだのか

まさに自分の弱みが指摘されていると思ったからです。多くの人を巻き込むプロジェクトなのに、出口から逆算できていない、リスクを洗い出せていない、想定外の事態に対して計画を引き直せていない、勝ち筋を言語化できていない等、失敗や至らない点だらけです。自分の抱える本質的な課題を言語化し、克服したいと考えました。

直接のきっかけは「今の政治は敗戦当時と同じだ」というコメントを見かけたことです。コロナ禍・オリンピックを巡る政治の混乱にも、本書の内容が当てはまると思います。疫病を収束させるには、全国民が免疫を獲得するまでのロードマップを描き、感染拡大や損害を抑えながら、ワクチン開発・確保・普及に向けて関係各所に働きかける必要があるでしょう。しかし「そのうち収まるだろう」という希望的観測にもとづいて、曖昧な意思決定を積み重ねているように思います。

仮に、自分が政治を担う立場だとして、適切な戦略策定・遂行を推進できるでしょうか。正直なところ、私も同じように流されてしまうだろうと思いました。小規模な企業案件でさえ、アンチパターンを踏んでしまい、もどかしいと感じているのですから、国全体に関わるプロジェクトを遂行できるとは思えません。3年後には自信を持って「自分なら出来る」と言えるようになりたいです。

この書籍から何を学べるか

以下の観点について学ぶことができます。

逆算思考:①ゴールを設定します。②ゴール達成に向けたロードマップを描きます。③必要なアクションに専念します。④ディスカッション時には目的を定めます。

リスク管理:①懸念事項は何度でも再検討します。②埋没費用ではなく今後の投資計画で判断します。③自分たちにとって都合の悪い事実を議題に挙げます。④リスクを把握して周知します。⑤人事評価は熱意ではなく結果で判断します。

偶発依存からの脱却:①天才的な職人技に依存するのは危険です。②スタッフの根性に頼るのは危険です。③高機能なテクノロジーに慢心するのは危険です。④偶然の発見を当てにするのは危険です。⑤過去の成功体験をひたすら再現し続けるのは危険です。

情報収集:①自分がクビになったつもりで白紙で考えましょう。②プロジェクトごとに適した責任者を選出しましょう。③各分野の専門家と協力しましょう。④外部の事例や技術を調査しましょう。⑤現場の実情をリサーチしましょう。

変化への適応:①場を支配している法則を把握しましょう。②相手の勝ちパターンに乗らないように対処しましょう。③相手の努力を無効にできる勝ちパターンを発明しましょう。④新しい勝ちパターンに先行投資して差を付けましょう。

各項目の詳細について、順を追って述べます。

逆算思考

この書籍で学べることの1つが逆算思考です。「なんとなく」挑戦してみたら「そのうち」話が進んで「きっと」良い結果になるだろう、といった曖昧な意思決定に逃げないために、以下が大事だと述べています。

①ゴールを設定します。最終的にどうなっていたら目標達成と言えるのか、を考えます。本書によると、日本軍は「どこかの戦場で大勝利すれば戦争が終わるのではないか」と期待していました。一方、米軍は「日本本土爆撃で終戦を迎える」というゴールを描いていました。

②ロードマップを描きます。ゴールの達成に向けてどのような過程を経るのか、を考えます。本書によると、米軍は日本本土爆撃に必要な拠点を定めて、順次制圧しました。

③ターゲットを絞り込みます。何が「目標達成につながる勝利」で、何が「目標達成につながらない勝利」なのか、を考えます。本書によると、日本軍が占拠した25島のうち、17島は米軍抑止に寄与せず、戦力を1/3に分散しただけでした。一方、米軍は日本軍の補給を断つことに専念し、空母・輸送船に的を絞って攻撃しました。

④ディスカッションの目的を定めます。コミュニケーションが自転車置場の議論に陥っていないか、に注意します。自転車置場の色について議論が盛り上がってばかりで、そもそも自転車置場が必要なのかについて議論しないと、本末転倒です。

リスク管理

ゴールから逆算して計画を立てたら、次はリスク管理が重要になります。計画の根拠が曖昧だと危険です。「たぶん大丈夫だろう」という思い込み(願望)を検証することが必要だと述べられています。

①結論に固執していないか、をチェックします。決定事項に対して「やっぱり違うのではないか」と誰かが発言したときに「いまさら蒸し返すな」という集団心理が働きます。場の空気に流されて、正しい戦略を追求することの苦しさから逃げてしまうと、失敗に繋がります。

②埋没費用(サンクコスト)を無視できているか、をチェックします。本書によると、ある作戦を続けた理由は「ここで止めたらこれまでの犠牲が無駄になるから」だそうです。あくまで今後の追加投資と期待リターンだけで判断しないと、損失が広がり続けます。

③都合の悪い事実を受け入れているか、をチェックします。本書によると、米軍による通信傍受の兆候があったにもかかわらず、日本軍はその兆候を無視して作戦を強行し、返り討ちにあいました。

④リスクを周知しているか、をチェックします。リスクを把握することで、リスクと向き合い、リスクに注意を払えるようになります。日本軍は戦況が悪化するにつれて、偽りの勝利を国内に宣伝するようになりました。

⑤人事評価は結果にもとづいているか、をチェックします。本書によると、日本軍は身内の人間関係に配慮し、意欲を示した者を降格にしませんでした。その結果、無責任な失敗者が続出しました。作戦の結果を客観的に振り返る機会もありませんでした。

偶発依存からの脱却

戦略とリスク管理ができていないと、偶発的な要素に依存するようになります。プロジェクトの計画者・推進者が以下の発想に陥っていたら、危機的な状況です。偶発依存の発想から脱却しましょう。

①職人技に依存している状態は危険です。本書によると、日本軍は遠くの敵を見つけるために、厳しい訓練を繰り返しました。一方で、米軍はレーダー開発によって遥か遠方の敵を見つけられるようになりました。おそらく「8割のスタッフが習得できる技能」に依存するのは許容範囲で、「2割の職人技」に依存するのは危険なのだと思います。

②スタッフの根性に依存している状態は危険です。本書によると、ガダルカナル作戦では長距離飛行後の戦闘を命じ、大敗を招きました。また、インパール作戦では補給なしの進軍を続け、餓死者が続出しました。スタッフの主張に対して、管理者が精神論や根性論を唱え始めたら、危うい状況だと言えます。

③高機能に依存している状態は危険です。本書によると、米軍は零戦に比べて機能が劣る機体を用いて、2対1で零戦を撃墜する戦い方を開発しました。優れたテクノロジーやスキルであっても、時には運用で攻略可能です。「◯◯があるから大丈夫」は「◯◯が一番のリスクになる」点に注意します。

④偶然の発見に依存している状態は危険です。試行錯誤が上手く行かなかった場合に、打つ手がありません。「検証」「研究」「発明」「開発」といった不確実な取り組みについても、ある程度の仮説と筋道を立て、計画に沿って進めることが求められます。

⑤過去の成功体験に依存している状態は危険です。ルールが変わっている場合に、打つ手がなくなります。「◯◯が上手くいったので同じように◯◯をしましょう」「◯◯を変更する必要はありません」といった言葉が出てきたときには、ロジックに問題がないかを確認します。

情報収集

偶発要素に依存するのではなく、計画的に勝ち筋を特定します。適切な計画を立てるためには、適切な情報収集を行います。主に以下のような取り組みだと述べられています。

①(脳内で)自分をクビにします。計画が失敗して、責任者・担当者が全員入れ替わった未来をシミュレーションします。前任者(自分)の自分本位な計画を廃棄します。適切な計画策定に向けて、情報収集を行います。

②プロジェクトや役割ごとに責任者を選出します。本書によると、日本軍は各作戦の指揮系統がいずれも同じで、いつも決まった人間が上司になりました。流動性が低いため、作戦の品質向上や課題検知の機会が損なわれました。

③専門家の意見を計画に反映します。本書によると、日本軍はレーダー開発の重要性を理解できず、研究開発に予算を回しませんでした。科学者が苦労して取り付けたレーダーを、パイロットが外してしまいました。一方で、米軍は科学者と軍人が協力して研究開発を進めました。研究の評価については、軍人では難しいと判断し、科学者が担当しました。

④外部の事例や技術をリサーチします。本書によると、伊藤庸二氏はドイツ訪問でレーダーの存在を知り、報告書をまとめていました。また、石原莞爾氏はドイツ留学での学びを活かして、日本軍の被害を最小限に抑える作戦を立案しました。

⑤ダブルループ学習を行います。現場スタッフは「目標をより良く達成するにはどうするか」(実行力)の課題検知・改善を行います。同時に、参謀は「目標設定自体が本当に正しいのか」(戦略)の課題検知・改善を行います。本書によると、日本軍は報告書をもとに会議室で討論を続けましたが、報告書自体が現場を正確に描写できていませんでした。一方で、米軍はトップがパイロットに直接インタビューして、情報収集に努めました。また、現場で活躍した人材を参謀役に異動させることで、現場の実情を戦略に反映しました。

変化への適応

情報収集によって適切な戦略を立案した後、やがて状況は変化します。前提条件が崩れたときには、すみやかに適応しなければいけません。本書では、ルールチェンジの流れを、以下のように述べています。

①戦場の勝敗を支配している要素(指標)を発見します。例えば、偵察機のパイロットが敵を発見し、いち早く攻撃することが勝敗を左右する場合、パイロットの視力が重要です。日本軍は遠くの敵を発見できるように厳しい訓練を行いました。

②相手の勝ち筋(指標)への対応策を検討します。例えば、米軍は零戦に苦戦したとき、生き残ったエリートパイロット複数名を招集して、トップ自ら情報収集に務めました。そして、既存機体の改善と新機体の開発を急ぎました。対応策が見つかるまでは、パイロット全員に零戦との一対一の対決を禁じました。

③相手が積み重ねた努力(指標)を崩します。例えば、米軍はレーダーを活用することで、遠距離から敵を発見できるようになりました。機械の性能が人間の視力を超えていたため、日本軍の訓練を無駄にしました。

④新しい勝ち筋(指標)に先行投資して、相手を圧倒します。例えば、米軍は優秀な科学者を集め、研究開発に予算を投じて、高性能なレーダーを開発しました。日本軍はレーダーに予算を回さず、差は広がり続けました。

まとめ

戦争や疫病といった不確実性の高い状況において「逆算思考」「リスク管理」「偶発依存からの脱却」「情報収集」「変化への適応」といった観点が必要だと述べています。これらの観点が欠けてしまうと、行き当たりばったりの消耗戦に陥ってしまいます。商品開発などの経済活動でも同じです。自信を持って周囲を導けるように、見立てる力を鍛えたいと思いました。

「超」入門 失敗の本質

「超」入門 失敗の本質

あとがき

執筆の訓練として書籍の紹介記事を書いてみました。この内容で約5,000文字です。もっとシンプルで伝わりやすい文章を書けるように精進します。