下町柚子黄昏記 by @yuzutas0

したまち発・ゆずたそ作・試行錯誤の瓦礫の記録

個人開発の雑誌取材がボツになったので供養します

まえがき

  • 某有名誌に取材を受けたのですが諸事情でボツになったので供養します。
  • 事前質問とカンペと議事録を組み合わせて取材風テキストにしています。
  • 自分で自分のブログに自分の取材テキストを貼り付けるというヤバさには目を瞑っていただけると幸いです。

Q. ゆずたそ様はご自身でもウェブサービスを開発され、またさまざまなエンジニアの個人開発の経験をまとめた著書も発刊されています。

よろしくお願い致します。 まず簡単に自己紹介させてください。 私は @yuzutas0(ゆずたそ) というハンドルネームで活動しています。

Webサービスやプログラムを個人で開発して、何度か有名なメディアに取り上げていただいたこともあります。 今年の4月には、25人の個人開発の事例をまとめた書籍『個人開発をはじめよう!』を出版しました。

今回のインタビューは「新しい稼ぎ方」というテーマ1ですので、テーマに即した話をします。

また、「解説役」としてのご指名ですので、偉そうに解説をしますが、残念ながら偉い人ではありません。

ちなみに「個人開発」という言葉の定義は人によって異なります。 ここでは大まかに「自分でWEBサービスやアプリを企画・開発・運用してお金を稼ぐこと」だとしておきましょう。

Q. そもそも「個人開発」で稼ぐことはどの程度可能なのでしょうか。

残念ながら、誰でも簡単に稼げる、とは言えません。 ですが、工夫次第で大きな可能性を秘めています。

  • 安定した仕組みを作り上げて、ちょっとしたメンテナンスだけで毎月の副収入を得ている人。
  • 大きな反響を得て会社員時代以上の稼ぎを得ている人。
  • 有名ではないけれど企業向けのサービスを作り、法人顧客に高単価で提供して稼いでいる人。
  • サービス単体で収入を得るのではなく、名刺代わりにサービスを運営して、その実績を見せて確実に稼げるWEB開発の仕事を受注している人。

そういった人々が私の周りには大勢います。 どのような戦略で稼ぎに繋げるかは人それぞれです。


【※ブログ掲載に当たって追記】 以下の記事は、本業とは別にBtoBの個人開発サービスを運営して数百万円を稼いだ事例です。 再現性のある戦い方をしている点が素敵だなと思いました。

Q. 個人開発の醍醐味と難しさはどこにあるのでしょうか。

成功も、失敗も、全てが自分に跳ね返ってくることだと思います。 これが一番の醍醐味であり、難しい点でもあります。

自分が思いついたアイデアを実現して、顔も名前も知らない大勢の人たちから 「こういうサービスが欲しかった」と言ってもらえたときには、とても充実した気持ちになります。

一方で、トラブルが起きると、ユーザーの皆様にご迷惑を掛けてしまい、非常に申し訳ない気持ちになります。 個人開発では誰も助けてくれません。 不快な思いをさせてしまったら、二度とサービスを使ってもらえないかもしれません。

会社員として働いていると「この仕事に意味があるのだろうか」「本当に誰かの役に立っているのだろうか」と、 つい愚痴を言いたくなる瞬間があるのではないでしょうか。

個人開発では自分の作業の1つ1つがユーザーに直結します。 愚痴を言う暇があるなら、1秒でも早く問題を解決しなければいけない、という気持ちになります。

Q. 「個人開発」にはどの程度プログラミングのスキルが必要と考えますか。プロのエンジニアでないと難しいのでしょうか。

「プロのエンジニアでないと難しいか」に対する答えは「NO」です。 技術スキルの大小と個人開発の成否は必ずしも繋がりません。

技術スキルが気になってしまう人は、手段と目的が入れ替わっているのだと思います。 そのこと自体は悪いことではありません。 しかし「稼ぐ」をテーマにするなら、気を付けたいポイントです。 「技術スキルは身に付いた」「バズった」「でも稼げない」というアンチパターンは陥りがちです。

プログラミングをほとんど行わず、無料ツールを組み合わせてサービスを提供し、実際に売上を稼いでいる人もいます。 作るスキルと、広めるスキルと、稼ぐスキルは、必ずしも一致しないのかなと思います。 これが個人開発の面白さでもあり、難しさでもあります。

個人開発では、プログラミングに限らず、UIデザイン、マーケティング、カスタマーサポート、法律、会計など、 ありとあらゆる分野が関わってきます。 全てのスキルを完璧に習得しているなら、もちろんそれが理想的です。 しかし1人で最初からオールAを取るのは現実的ではありません。 ですから「スキルがなくても成功させる」という発想が重要だと思います。

最近の私自身の例を挙げます。 自粛期間中に夫婦で楽しめるような診断サイト を公開しました。 私はUIデザインが得意ではありません。 でも、奥さんが喜んでくれるような可愛いUIにしたいと思いました。 そこで ランサーズというクラウドソーシングサイト にお金を払って、 プロのデザイナーにUIデザインの案を出してもらいました。 また、技術面では @toiroakr という凄腕エンジニア( 『個人開発をはじめよう!』 の共著者です)に助けてもらいました。 もし周りにエンジニアがいなくても MENTAのようなサービス があるので、 お金を払えば教えてくれる人は見つけられると思います。

スキルがあるから成功するのではなく、たとえスキルがなくても、成功するために必要なものを揃える。 このマインドに切り替えることが大事だと思います。

Q. リリース後に多くの人に利用してもらうためにはどうすればいいのでしょうか。メディア掲載やクチコミでヒットを生み出すのは、ハードルが高いように思います。

ユーザーを集めるコツはいくつかあります。 書籍 『個人開発をはじめよう!』 を一緒に執筆した仲間の事例を紹介します。

1人目は アタカさん です。 アタカさんは付箋アプリを作っており、ユーザーを獲得するために、iOSやAndroidのストアを磨き込んでいます。 ストアに低評価レビューが寄せられたら、すぐに不満点を解決して「解決しました!」と連絡をします。 ユーザーは迅速な対応に感動して、高評価に変えてくれるそうです。 高評価レビューが多ければ「付箋」で検索したときに興味を持ってもらいやすくなります。

2人目は nabettuさん です。 nabettuさんはNotionというツールを便利に活用できる派生ツールを提供しています。 nabettuさんはSNSでNotionに関する情報を積極的に発信しています。 そうするとNotionを好きな人々がその発信を普段から見ることになるのかなと思います。 Notionが好きで、Notionをもっと活用したい人たちは、 日々Notionについて情報発信するnabettuさんのツールにも興味を持つのではないでしょうか。

3人目は Hirozさん です。 地域支援のWEBサービスを売り込むために、行政が主催するコンテストへと積極的に参加して、コネクションを広げています。 もともとは札幌市の職員だった方で、その経験を活かしているそうです。 WEBサービスのヒットというイメージからは程遠いかもしれませんが、営業活動はスモールビジネスの王道です。 やり方が手堅くてGoodだなと思います。

メディア掲載やクチコミでヒットすることもあります。 しかし、もし都合良く物事が進まなかったとしても、このように努力と創意工夫で道を切り開くことができます。 成功も失敗も全ては自分次第なのだと思います。

Q. 何人か取材して「個人開発」で稼いでいる人は、ほとんど存在しないのではないかと思いました。実際のところ周りにいます?

ちなみに 『個人開発をはじめよう!』 では 月に100万円を稼いでいる @SiROさん の事例も掲載しています。

また、「ちょっとしたメンテナンスだけで毎月の副収入を得ている人」で真っ先に思い浮かぶのは、 同じく『個人開発をはじめよう!』 の共著者である @morizyun さんです。

そういえば、検索上位のアフィリエイターの中には、自分でプログラムを書いてWEBサイトを運営している人もいます。 彼らに言わせれば「アフィリエイトサイト」なのですが、冷静に見ると「リッチなUIのクチコミ投稿WEBサービス」なのです。 やっていることは個人開発と完全に同じで、さらにコンテンツの質や量を担保するための施策を次々と実行し、結果として月に数百万円の収益を得ています。 そういう意味では「個人開発」を名乗らないだけで(実質)個人開発で稼いでいる人のバリエーションは多いのではないでしょうか。

同様に、最初は個人開発だったプロジェクトでも、売上が増えると「個人開発」という冠(かんむり)が取れるのかもしれません。 会社法人を設立するとか、一部の作業を外注するとか、経営色が強くなるように思います。 それを個人開発と呼ぶかどうかは、好みや考え方の問題ですね。 私も今はどちらかというと1人の弱小経営者として頑張っていきたいなという気持ちのほうが強いです。

Q. そうなると個人開発に閉じたときの成功例とは何でしょうね。サービスの収益ではなくバイアウトでしょうか。

どうですかね。 サービス単体の収益があるに越したことはないですけどね。

買収する側の企業にいたことがあるのですが、単体で稼げないサービスは、いずれ閉じることになると思います。 赤字を垂れ流しているわけで、端的に言うと不採算事業ですから。 最初は良くても、景気が悪くなったり予算を見直すタイミングで、真っ先に片付ける対象になります。

買い手に損をさせて、自分の作ったサービスが捨てられる。 その結末が、本当に成功と呼べるのかは、ちょっと私には分からないです。 単体で収益が上がっていて、買い手にも売り手にもプラスになるような、そういう事業譲渡のほうが健全ですね。

【※最後に良い感じに締めるためのカンペ】2

正直なところ、稼ぐという観点では、個人開発は効率的な手段ではないと思います。 月300円を払ってくれる人を1000人見つけて、ようやく月30万円の稼ぎです。 プログラミングを学んでリモートの開発案件を受注するほうが、遥かに簡単に多くの金額を稼げます。

それでも個人開発による収益が魅力的なのは、正真正銘、自分自身の努力と創意工夫で得た成果だからです。 これだけ変化の激しい不確実な時代において、自分の力でお金を稼げる人と、そうでない人の間には、大きな差があるように思います。 個人開発で1円でも稼いだことのある人は、そうでない人と比べて「稼ぐ」ということについては一歩進んでいると思います。 結局のところ、私たちが不安なのは、あるいはチャンスを活かせていないと感じるのは、自分自身の力でお金を稼いでいないからではないでしょうか。

私は挑戦してきてよかったと思っていますし、周りの人たちから「挑戦して後悔した」という話を聞いたこともありません。 反対に、これまで挑戦しなかったことを悔やむ声や、もっと早く挑戦すればよかったという意見なら、山程聞きました。 稼げる保証はありません。100人中99人は失敗して終わるかもしれません。 ですが、心の片隅に、もし1%でも挑戦したい気持ちがあるのなら、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

【※ブログ掲載に当たっての補足コメント】

再掲しますが、以下2点が前提の話です。

  • 今回のインタビューは「新しい稼ぎ方」というテーマですので、テーマに即した話をします。
  • 「解説役」としてのご指名ですので、偉そうに解説をしますが、残念ながら偉い人ではありません。

個人開発には「お金を稼ぐ」以外の魅力も沢山あります。 純粋に楽しいと思いますよ。 だから、どんどんアイデアを出して、どんどん作れば良いじゃん、みたいな立場です。 心のままに進めば良いのではないでしょうか。

ちなみに人類は200万年前には石器を作っていたそうです。 種族としてクリエイター魂が染み込んでいるのではないか、と私個人は思っています。 ROIを考えながら石器を発明したわけじゃないと思うんですよ。知らんけど。


  1. ニュアンスを残しつつ、オリジナルの特集名からは変えて記載しています。

  2. タイミングを逃して結局言えなかった。